本プロジェクトの概要
本プロジェクトの目的
単に検査を実施するだけでは、がん検診を実施してもがん死亡率は低下しません。がん死亡率低下のためには、検査以外にさまざまな関係者が適切に行動することが必要です。適切な行動のためには正しい知識を持ち、現状を認識し、正しく判断しなければなりません。ここでは現状を正確に認識し、今後の判断を検討するために、がん検診に関するデータを地域単位(都道府県、市区町村)で確認できることを目的としました。
がん診療は地域によって状況が異なるため、精検受診率の向上にはその地域にあった対策をとる必要があります。ここでは、各地域の精検受診率の状況と、精検受診率に関連して市区町村が実施すべき項目の実施状況をお示ししました。それぞれの地域で具体的な対応策を議論する際の共通の認識になる簡便な資材も提供します。
がん検診の検査を実施する医師だけでなく、診療としての精密検査やがん治療、病理診断を担う医師、そして都道府県や市区町村でがん検診の運用や品質管理に携わっている行政担当者には関与する地域の実態を知り、必要な改善に取り組んでいただければよいと思います。また、がん検診を受ける立場の一般市民には、それぞれの地域のがん検診の実施状況を知るきっかけとなるようなプロジェクトを目指しています。
なぜ「精検受診率」なのか
がん検診に関する指標の多くは他の指標と密接に関連し、一方が高くなると他方を押し下げるなど、解釈が複雑です。しかし、「精検受診率」は高ければ高いほど良いという理解しやすい指標であり、がん検診によるがん死亡率低下を達成するために最も大事な指標です。がん検診は、最初の検査(検診)を受けただけではがんを診断できません。がん検診で「がんの可能性あり(要精密検査)」とされた方は、精密検査を受けて初めてがんかどうか診断されます。つまり、精検受診率が低いがん検診ではがんが見つからないということになります。本来、精密検査はがんが疑われた人の全員が受けるべきものですが、我が国では当面の目標値を90%としています。現状では、市区町村が実施するがん検診において、乳がんでは精検受診率90%がほぼ達成されていますが、その他の部位では70~80%程度です。
どんなに優れたがん検診の方法が開発されても、精検受診率が低ければがん検診による死亡率の低下は得られません。そのため、我が国ではまずは精検受診率の改善に着手する必要があります。